わたしが大切にしていること
CrossTalk
女性の健康総合センター センター長
女性総合診療センター 女性外科/婦人科
女性の健康総合センター
オープンイノベーションセンター準備室 室長
国立成育医療研究センター研究所 ダイバーシティ研究室 室長
Cross Talk .02 |
(後編)
声を届け、声が届く場所から、
多様性は育つ
働く女性は、妊娠・出産、子育てといったライフステージごとに課題を抱えながらキャリアを歩み、またホルモンの変化といった特有の課題に直面することも多くあります。それらは、多様性として丁寧に向き合うべきテーマです。今回は、女性の健康とキャリア支援に長く携わる小宮ひろみ先生と、成育でダイバーシティ推進を担う松原圭子先生のお二人に、働き続けるためのヒントやこれからの組織に必要な視点についてお話しいただきました。
女性の健康総合センター センター長
女性総合診療センター 女性外科/婦人科
女性の健康総合センター
オープンイノベーションセンター準備室 室長
国立成育医療研究センター研究所 ダイバーシティ研究室 室長
働く女性は、妊娠・出産、子育てといったライフステージごとに課題を抱えながらキャリアを歩み、またホルモンの変化といった特有の課題に直面することも多くあります。それらは、多様性として丁寧に向き合うべきテーマです。今回は、女性の健康とキャリア支援に長く携わる小宮ひろみ先生と、成育でダイバーシティ推進を担う松原圭子先生のお二人に、働き続けるためのヒントやこれからの組織に必要な視点についてお話しいただきました。
女性の健康をバイオ・サイコ・ソーシャルでとらえる
松原先生
体調の揺らぎがあることも、広い意味ではダイバーシティの一つなのかもしれませんね。そもそも、誰もが常に100%の力を発揮できるわけではありませんし、もともとのポテンシャルも違います。仕事や家庭に割ける時間も、人によってさまざまです。そうした違いを含めてこそ、ダイバーシティなのだと思います。
ただ、その捉え方は簡単ではありません。「男性だから」「女性だから」という表層的な区分だけでは、語りきれない部分が多いですよね。身体的な違いも含めて、もっと広い視点で捉えていく必要があると感じています。
小宮先生
そうですね。ただ、性差というのは確かにあります。女性はホルモンの影響を受けやすく、月経周期や更年期といった特有の変化があります。男性にも更年期(LOH症候群)はありますが、閉経という明確な区切りがないので、その違いは大きいと思います。そうした性差を前提にしたうえで、女性の体や働き方をどう考えていくかを見直していくことが大事だと思います。
松原先生
性差は、見えやすい違いの一つですが、体調や環境といった個人差は本質的には誰にでもあります。そうした違いも含めてダイバーシティとしてとらえるべきですね。
ダイバーシティを推進するということは、単に「多様性を認めましょう」という話ではなく、組織の一人ひとりが最大限に力を発揮し、全体がより良い方向へ向かうための仕組みをつくることです。誰か一人のトップスターを育てることが目的ではなく、組織全体としてまとまり、総合力を高めていくこと。そのためには、寛容で優しい組織であることが大事だと感じています。
女性の働き方は一つではない。“それぞれのペース”を支える仕組み作り
松原先生
ここからは「女性の働き方」についてお話ししたいと思います。
フルコミットでしっかり働きたいという方もいれば、そうではない形を選ぶ方もいます。ダイバーシティの観点から見てもさまざまな働き方があっていいはずです。ただ、その多様性をどのように受け止め、どう支えていくのか。そこが、組織にとっても個人にとっても、大切なポイントではないかと感じています。
小宮先生
女性の働き方は、やはりライフステージによって変化していくものだと思います。妊娠・出産、子育て、更年期と訪れる変化を大切にしながら、自分の健康をきちんと維持していく。それが何よりも大切です。
周囲や社会がその多様性を認め合い、支え合うこと。そうした環境があってこそ、一人一人が自分の力を最大限に発揮できるのではないでしょうか。
松原先生
働き方については、本当に人それぞれだと感じています。
だからこそ、どんな方でも無理なく働けるように、支える仕組みが必要ですよね。制度でもいいし、伴走やアドバイス、寄り添いといった個別のサポートでもいい。いずれにしても、「みんなが同じ働き方をできるわけではない」という前提に立って考えていくことが大切だと思います。
そして、管理職やマネージャーになるときには、こうした視点を持つための研修が必要だと思います。ただ一方で、「働けない人」を基準にしてしまうのも違うと思っています。使命感を持って全力で働きたいという人もいますし、できる範囲で精一杯挑戦したいという方もいます。その意欲まで抑えてしまうような仕組みになってはいけませんよね。みんながそれぞれのペースで、それぞれに頑張れていれば、それでいいと思います。
管理職こそ問われる、
思いやりとしなやかな柔軟性
松原先生
本来、誰もが同じようにサポートを受けられる環境が整っていることが、組織の持続力や働く人の安心感につながると考えています。そのためには、制度やルールがきちんと明文化され、それらを活用してもらえることが大切です。
ただ、制度だけでは対応しきれない場面もあります。そうしたときには柔軟にサポートする姿勢が必要で、管理職やマネージャーがそのマインドセットをもつことで、部下が安心して働ける環境が整います。特に子育て中の方は、数年経って少し落ち着いたころにまた力を発揮できるようになることが少なくありません。その期間をどう支えていくかが、結果として組織全体の力を底上げしていくのだと思います。
小宮先生
おっしゃるとおり、子育ての時期というのは本当に限られた期間だと感じています。だからこそ、「今の自分の人生の中で何を優先するか」という視点が大切です。その時々で優先順位をつけることは、決して悪いことではありません。そして、子育ての時期を一つ乗り越えると、また新しいエネルギーで自分の夢や目標に向かって進めるようになる。そんなふうに感じています。
松原先生
結局のところ、どちらかの型に合わせるのではなく、その人がやりたいように働ける環境があることが一番だと思います。ただ、実際には業務量が多く、気付くと一人で抱え込んでしまうこともありますが。
小宮先生
今は、効率化が大きな課題だと感じています。AIなどのデジタル技術を取り入れることも重要ですが、それだけではありません。自分ひとりで抱え込まないことも、広い意味での効率化。「ここはお願いします」「手伝ってもらえますか」と頼ることも、大切なスキルだと思います。
松原先生
つまり、「助けてください」と声に出して伝えることですね。
小宮先生
そうですね。周囲に助けを求めたり、「これお願いします」といえたりする環境づくりはとても重要です。部署や個々の専門性によって得意分野が違いますし、自然に「助けて」といえる環境があることは、本当に大切です。上の立場の人がそうした姿勢を示せば、周囲も声を上げやすくなり、組織全体の雰囲気も大きく変わるのではないでしょうか。
松原先生
誰かが助けを求めていたら、自分ができることで手を差し伸べる。立場に関係なく、そうした気持ちを互いにもつことができれば、きっと風通しのいい職場になると思います。
若い頃は、「弱みを見せたら、自分の仕事を取られてしまうのではないか」と不安になることもありました。でも、実際にそのようなことはありませんでしたし、仕事に求められる質が上がり、一人では対応しきれない時代だからこそ、「みんなで協力していこうよ」という気持ちがより強くなってきました。
小宮先生
それから、「思いやる」という視点が大切だと思います。男性と女性では、健康のあり方が違いますよね。女性が男性の健康をすべて理解できるわけではありませんし、その逆も同じです。でも、少し知識をもつことで、お互いを思いやることはできます。つまり、リテラシーを上げるということです。そうすることで、必要以上に言葉にしなくても、自然に気付き合える関係がつくれるのではないでしょうか。そうなれば、職場はもっと優しくなっていく。それこそが、ダイバーシティのあり方だと感じています。
松原先生
難しい場面もありますし、きれいごとだけでは済まない現実もあります。それでも、マネージャークラスの方々が、できる限り前向きな姿勢を示すことが大切だと思います。その姿勢自体が、周囲を支える力にもなりますから。
小宮先生
そうですね。管理職やマネージャーにも、ダイバーシティの視点は不可欠です。無意識の偏見、いわゆるアンコンシャス・バイアスの問題もありますし、それに気付くためには研修や教育がとても重要ですよね。
松原先生
管理職の中には、すべてを自分で抱え込もうとする方もいます。責任感の強さゆえですが、だからこそ、肩の力を少し抜いてもいいというマインドセットが必要なのかもしれません。
女性研究者として、
次の世代に何を残したいか
松原先生
最後に、女性研究者として次の世代に伝えたいこと、残していきたいと思うことを教えてください。また、ご自身がこれからつくっていきたい環境についてもお聞かせください。
小宮先生
働き方は、いまだに「女性だから」「男性だから」といった枠組みで語られがちですが、本来はそうした区別を前提にせず、同じ土俵で議論できるのが理想だと思っています。それが、当たり前になっていくといいですよね。
妊娠・出産は女性にしかできませんが、子育ては本来、男性と女性が共に担っていくものです。私は福島にいた頃からずっと、このような考えが特別なものとしてではなく、自然に共有される時代になってほしいと願っていました。
男性も女性も、それぞれが互いに思い合い、支え合える。そんな社会に少しずつ近づいていけたらと思います。
松原先生
私は「諦めないでほしい」ということを、まず伝えたいです。体のことや置かれた状況を理由に、キャリアや子どもを持つことを諦めてしまうのではなく、自分の意志で選び取ってほしい。そうした、自分の可能性を自分で狭めてしまうような決断は、してほしくありません。
結果として別の道を選んだとしても、「諦めた」ではなく、自分で選んだ道として前を向いて進んでいってほしい。自分の可能性を自分で狭めず、最後まで信じて歩んでほしいですね。
小宮先生
本当にそのとおりですね。やりたいことがあるなら、躊躇せずに挑戦してほしいと思います。人生は一度きり。自分が心からやりたいと思うこと、「これが夢だ」と思えることに、しっかり向き合って進んでいってほしいと思います。
焦らず、自分のペースで。健康に、しなやかに、長い人生を歩んでいってほしいですね。
女性の健康総合センター センター長
女性総合診療センター 女性外科/婦人科
山形大学医学部卒業、医学博士。
産婦人科医としての研修を経て、米国ベイラー医科大学にて研究に従事。2001年より福島県立医科大学で女性医療と女性医師支援に携わり、性差医療センター教授、男女共同参画推進本部副本部長など要職を歴任。
制度整備と環境づくりに力を尽くす。2024年10月に国立成育医療研究センターに新たに開設された女性の健康総合センターのセンター長を務める。
女性の健康総合センター
オープンイノベーションセンター準備室 室長
国立成育医療研究センター研究所 ダイバーシティ研究室 室長
浜松医科大学卒業、医師・医学博士。
小児内分泌疾患やインプリンティング疾患、臨床遺伝学の研究に携わり、分子内分泌学とデータサイエンスを基盤に、遺伝性疾患の解析や小児の発達医療・療育に関する研究を進めている。
国立成育医療研究センター分子内分泌研究部で研究員、上級研究員を経て、2023年より国立成育医療研究センター研究所ダイバーシティ研究室室長。

松原先生
「女性の健康」というテーマについて、少し広い視点で考えてみたいと思います。女性の健康とは、実際に何を指すのか。そして、それをダイバーシティという観点で、どう結びつけていけばよいのでしょうか?
小宮先生
女性の健康とは、五十嵐理事長がいつもおっしゃっておられますが、バイオ・サイコ・ソーシャル、つまり身体的・心理的・社会的な側面からみた総合的なウェル・ビーイングのことだと思います。
従来の産婦人科医療や女性特有の疾患だけではなく、女性が抱えるさまざまな不調、年齢やライフステージに伴う変化、そして精神面や社会的環境も含めて考える。そうしたすべてを総括してとらえることが、女性の健康なのではないかなと思っています。
松原先生
一方で、「女性だからこう」とひとくくりにしてしまうことが、本当に公平なのかという思いもあります。女性の健康というテーマを扱う一方で、もしかしたら私は男性の抱える課題側を十分に見ていないのではないか。女性の健康を専門に扱うからこそ、男性が直面している問題にも同時に目を向ける必要があるのではないか、と考えることがあります。
小宮先生
体調に波があるのは、やむを得ないことだと思います。誰にでも不調な日はあります。問題なのは、その不調をそのままにしてしまうことです。男性も女性も、「これくらい大丈夫」「みんな我慢しているから」と思って、つい放ってしまう。気づかないうちに不調が続いていたり、パフォーマンスが落ちていたりすることもあります。
最近では「プレゼンティーズム」や「アブセンティーズム」といった言葉で表現されますが、そうした状態が増えているのは、やはりよくない傾向です。だからこそ、自分の体や心の変化にもう少し敏感になって、早めにケアすることが大切だと思います。