わたしが大切にしていること
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ダイバーシティ推進センター
副センター長
研究所 副所長
Cross Talk .01 |
医療と研究の世界で、
女性の力を発揮できる未来へ
医療・研究の世界で女性がキャリアを継続し、リーダーとして活躍するために必要な環境とは。
文部科学省「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(女性リーダー育成型)」で先駆的な取り組みを行う順天堂大学ダイバーシティ推進センター副センター長の平澤恵理先生と、同事業に新たに採択された国立成育医療研究センター(以下:成育)研究所副所長の深見真紀先生。2人の女性リーダーに、ダイバーシティの推進についてお話を伺いました。
ダイバーシティ推進センター
副センター長
研究所 副所長
医療・研究の世界で女性がキャリアを継続し、リーダーとして活躍するために必要な環境とは。
文部科学省「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(女性リーダー育成型)」で先駆的な取り組みを行う順天堂大学ダイバーシティ推進センター副センター長の平澤恵理先生と、同事業に新たに採択された国立成育医療研究センター(以下:成育)研究所副所長の深見真紀先生。2人の女性リーダーに、ダイバーシティの推進についてお話を伺いました。
「あと10分あれば…」をかなえた支援制度
平澤先生
まず初めに取り組んだことは、ライフイベント中の研究者が抱える時間的な制約を解消することを目的とした「研究支援制度」の導入でした。この制度は、研究者が週5〜6時間程度の研究サポートを受けられる制度です。例えば、研究結果があと一歩で得られる状況でも、子どものお迎えなどでこれまでの実験を無駄にせざるを得ないという研究者の悩みを解消します。「あと10分あれば、この実験を終えられるのに」
といった、わずかな時間の不足が研究の継続を妨げることも少なくありません。そこで、短時間のサポートを提供することで、研究者の研究上の課題解決と家庭生活の両立を支援します。ちなみに、サポート内容を決める際には研究者一人一人に充分な時間をかけてニーズをヒアリングし、補助者とのマッチングを行っています。毎年、20名ほどの研究者がこの制度を利用しています。
深見先生
とても効果的な支援ですね。私たちも「研究補助員制度」をスタートしたばかりです。研究者の希望に応じて週に1日から5日まで柔軟に対応できるようにしています。
平澤先生
それは、素晴らしいですね。次に、女性研究者のキャリアアップを支援する「特任教員制度」を導入しました。これは、各診療科に女性上位職を配置することを目標に、5年任期で特任准教授として採用し、正規の准教授へのステップアップを支援する制度です。当初は2〜3名の予定でしたが、医学部長(現在の学長)の提案により10名に拡大。その結果、脳外科や心臓血管外科といった女性が少ない診療科にも女性准教授が誕生し、組織変革の大きなきっかけとなりました。
さらに現在は、東京科学大学と連携し、「グローバルリーダー育成」にも注力しています。この取り組みは、女性研究者が国際的な視野と人脈を広げられるよう、海外共同研究や国際学会発表をサポートするものです。特に、教授候補者に対しては国際共同研究を支援しており、現在トロント大学、マギル大学、メイヨークリニックとの共同研究を推進しています。
″ダイバーシティ″を推進させるための鍵
深見先生
順天堂大学のダイバーシティ推進における一番のキーポイントはなんでしたか?
平澤先生
この取り組みを、「女性だけの問題」として捉えないことでした。「女性が女性のために」という限定的な枠組みでは、活動は長続きしません。
私たちが大きく前進できた理由は、学長(現在の理事長補佐)をダイバーシティ推進センターのセンター長に据えたことが大きかったと思います。私は副センター長として、センターをサポートする役割を担っています。トップがダイバーシティを組織全体の課題として明確に位置づけたことで、一部の女性だけの活動ではなく、大学全体の重要施策として推進され、目覚ましい成果を生み出すことができました。
深見先生
単なる「女性支援」ではなく、「組織改革」として位置づけるということですね。私たちも、組織全体の意識を変えていくことが必要ですね。
平澤先生
「無意識のバイアス」も大きな壁になっています。例えば「子どもが熱を出したため、早退します」という話を聞いた時に、「女性からの連絡だな」と思ってしまう人は多いと思います。こういった固定観念は、気付かないうちにさまざまな判断に影響しているのです。
深見先生
こうした課題を解決し、組織全体の取り組みとして定着させるために何か工夫をされましたか?
平澤先生
女性同士のネットワーク作りは非常に効果的でした。具体的には、先ほどご紹介した10人の特任准教授が集まり、「働き方改革ミッション」と題したオンラインミーティングを2週間に1回実施し、各診療科での工夫や成功事例を共有しました。さらに、この女性特任准教授と所属診療科の主任教授との対談をホームページに掲載し、組織としてどういう取り組みが進んでいるのかを「見える化」しました。これが予想以上に良い結果を生み、教授陣には部下の能力や可能性を再評価する機会となり、若手女性研究者の自信にもつながりました。成長した研究者が次世代を育て、その人材がさらに新たな世代を育成する。このような好循環が生まれ、自律的で持続可能な人材育成のエコシステムが構築されつつあります。そして、このエコシステムは、女性研究者だけでなく、若手研究者全体のキャリア支援にもつながっています。大切なのは、「誰一人として孤立させない」ということです。
深見先生
私たちも、研究者のキャリア支援にはメンター制度が重要だと考えています。そこで、「卓越研究員制度」を活用し、研究費の支援だけでなく、メンターによるキャリアサポートを行っていく予定です。経験豊富なメンターとの関係がリーダーとしてのキャリアパスを描く大きな助けになると思いますね。
平澤先生
こうした取り組みが積み重なると、職場の意識や環境にも着実に変化が表れます。今は男女問わずパートナーのキャリアを支える姿勢が当たり前になりましたし、医療界でも働き方改革が進んでいます。それに伴って、効率的な働き方が求められ、限られた時間の中で質の高い成果を出せる人材がより重視されるようになっています。
医療と研究の世界で、ダイバーシティを
推進するための成育の役割
深見先生
成育では今年から「成育女性リーダー育成プロジェクト」を始動させ「環境基盤整備」と「キャリアアップ支援」の2つの柱で進めています。今後、ダイバーシティを日本全国へ広げていくために、順天堂大学や成育が果たすべき役割をどのようにお考えですか?
平澤先生
私は、この3点が重要だと考えています。
①全国規模での女性研究者のネットワークの構築 ②ダイバーシティの意識向上 ③データに基づいた課題抽出と効果検証 まず「ネットワークの構築」では、順天堂大学は東京科学大学と連携し、異なる特徴や取り組みを互いに補完し合いながら女性リーダーの育成を邁進しています。こうした連携をさらに強化し、各大学・研究機関の女性研究者同士が交流し支え合える場を私たちが提供していくことが、大切だと思っています。
深見先生
確かに、そういう場があると、各大学・研究機関の取り組みや強みを共有でき、それらを広げていくことができますね。
平澤先生
次に「ダイバーシティの意識向上」についてですが、ダイバーシティ推進は女性だけの問題ではなく、組織全体の課題であるという認識を広げていくことが重要です。女性が働きやすくなると、男性にも多くのメリットがあると気付いてもらうことで、男性リーダーのダイバーシティ推進への意識が高まります。また、「データに基づいた課題抽出と効果検証」は、ダイバーシティ施策が実際にどのような影響を与えているのかを、エビデンスをもとに検証し、より効果的な支援策の導入につなげる取り組みです。こうした積み重ねが、今後ダイバーシティを推進する組織や機関にとっての道しるべになると考えています。今、深見先生と行っているこの対談も、まさに「ネットワーク構築」の一環ですよね。
深見先生
そうですね。順天堂大学が歩んできたダイバーシティ推進の道を知ることで、成育として今後どういう取り組みを進めていけばいいのか、それがクリアになってきました。成育には去年「女性の健康総合センター」が設置されました。今後は研究所と病院が「女性の健康総合センター」と連携しながら、女性リーダー育成に取り組んでいきたいと思います。
平澤先生
医療と研究の両面で新たな可能性を広げる重要な取り組みですね。女性の活躍を「特別な支援」ではなく「組織の成長戦略」として捉えることで、より多くの人の理解を得やすくなると思います。今後5年の間に、ダイバーシティに関する取り組みが組織文化として根付いて、ポジティブアクションが特別視されることなく、自然に機能する段階に進むのではないでしょうか。
これからは成育のような国立研究機関と私たちのような私立大学が連携し、互いの特性を生かした取り組みができればと期待しています。
深見先生
おっしゃる通り、多様性が当たり前の組織文化として定着し、誰もが力を発揮できる環境こそ目指すべき姿ですね。今回の対談で学んだことを生かして、成育ならではのダイバーシティ推進モデルを構築していきたいと思います。そして、患者さんやご家族にも還元できる医療研究の発展につなげていきます。
平澤先生、このたびは大変学びになるお話をありがとうございました。今後も連携体制を築いていけることを楽しみにしています。
ダイバーシティ推進センター
副センター長
順天堂大学卒、医学博士。神経内科専門医取得後、1990年より国立精神・神経医療研究センターにて筋疾患の病態解明を行い、細胞、遺伝子治療の研究に関わる。米国国立衛生研究所(NIH)に留学。
現在、順天堂大学老人性疾患病態・治療研究センターにて細胞外マトリックスの筋収縮に関わる分子機構、神経新生と老化に関わる基礎研究に従事。
研究所 副所長
1990年浜松医科大学卒業、1994年慶応義塾大学大学院修了、
その後、ドイツハイデルベルグ大学リサーチフェロー、横浜労災病院小児科医師などを経て、2003年国立成育医療センター流動研究員、2007年室長、2011年分子内分泌研究部長。
2021年6月、研究所副所長に就任。

深見先生
平澤先生、順天堂大学では長年ダイバーシティ推進に取り組まれていますが、その取り組みを始めたきっかけについて教えていただけますか?
平澤先生
順天堂大学で、ダイバーシティ推進を始めたのは2011年度からになります。当時、学位、専門医を取得した後にワークライフバランスを両立していく女性が少ないという事情があり、大学院を卒業した女性医師はほとんど大学に残らない状況でした。そのような状況を打破するために、まずは女性研究者・医師の離職を防ぐ「下支え」から始める必要がありました。特に女性は大学院在学中に出産するケースも多く、私たちは"届く支援"をしたいという思いで「ライフイベントのサポート」を最優先課題としました。
深見先生
成育では研究員の約70%が女性ですが、部室長など上級職になっている方は少ないです。リーダーを目指して長期的にキャリアを形成していける女性をさらに増やしていきたいと考えています。先生方は、具体的にどのような支援から始められたのですか。