わたしが大切にしていること

Interview .06 | ⁩越智 真奈美 先生 Pick Up
Woman Principal Investigator

Interview .06 | 助産師の経験を研究に活かす。
多様性を力に変えるチーム作り

社会疫学の視点から、子どもの心身の健康に関する研究を専門とする越智真奈美先生。
政策科学研究部で室長を務めながら、自身も研究と育児の両立に向き合う越智先生に、キャリアの歩みと若手研究者へのメッセージをお聞きしました。

越智 真奈美 国立成育医療研究センター
政策科学研究部 室長

「病院を出た後、支えきれていない家庭がある」
この気づきが研究の原点でした

助産師として働いていた頃、出産や病気で入院され、その後退院し、日々の生活に戻っていく中で、社会が支えきれていないお子さんや親御さんがいらっしゃるなという印象を持ちました。それをきっかけに、公衆衛生という分野で学位取得を目指すようになりました。

現在は政策科学研究部で室長として、子ども家庭庁が実施する事業に関連した調査や研究を中心に取り組んでいます。中高生の飲酒・喫煙および月経に関する全国的な調査、子どもの貧困など社会的なバックグラウンドが弱いご家庭のお子さんへの支援に関する研究、そして予防できる子どもの死を見つめ直して施策に活かすチャイルドデスレビュー事業について、自治体をエビデンスの面から支える調査などに携わっています。医療だけでなく福祉、保健、教育、社会学といった複数の専門性が交差する領域で研究を続けています。

周囲の方々と子育て支援制度が私を支えてくれました

室長というポジションで働かせていただき、大きなプロジェクトを任されるチームを運営していくという責任やプレッシャーと向き合いながら、仕事と育児の両立が難しく感じる時期もありました。でも本当に多くの先輩や上司、研究仲間に助けてもらい、今のような立場で働くことができています。
 
「研究職は長い時間をかけて少しずつ成果を積み上げていく仕事。今ペースダウンしたとしても、何か将来に繋がっていくものが得られる」。そんな言葉をかけてくださる方の多くが、ご自身もキャリアに迷われたことのある経験者でした。だからこそ、その言葉には信念や重みが感じられました。
 
制度面では、博士課程に在学しながら、専門性を生かして研究職として働けたことが支えになりました。学位を取るのは時間もお金もかかりますし、その間、生活を支える基盤がないと研究職を続けるハードルになります。学振(日本学術振興会特別研究員)やフェローシップなど、学びながら働く制度のおかげで、将来の展望を持ちながら学びと仕事を両立している同僚もいました。現在は保育園をはじめ、病児保育、ファミリーサポートなど、たくさんの子育て支援に支えられています。

多様な専門性を尊重することで、研究の質が高まると信じています

私の研究領域は、いろいろな専門性を必要とします。ですので、年齢もキャリアも問わず、研究メンバーや学生も含めて、それぞれの知識や経験、背景をできるだけ尊重するようにしています。そしてチームでプロジェクトの役割や目的を色々な言葉で共有し、どのように動いていくのかという透明性を持って進むこと、安心して意見を出し合える雰囲気を作ることを意識しています。そうすることでチームが活性化しますし、研究の質も高まるんじゃないかなと思います。
 
室長という立場から、社会的な期待を第一に考えてしまうと相当なプレッシャーになります。そんな時こそ一人で抱え込もうとせず、もっとメンバーに相談すべきことはないか振り返るようにしています。なぜこの研究が必要だったか、どう進めようとしているのか。基本に立ち返ることで、プレッシャーが原動力になることもあります。

制度と理解の両方が、研究を続けやすい環境をつくると思います。

若手の頃は特に、研究にアクセルをかけたい時期と家族の変化が重なりやすいと思います。研究を続けるかどうかを個人の力量や選択として抱え込んでしまいがちですが、実際には活用できる支援制度と、それを寛容に受け入れる周囲の存在がかなり影響します。制度があっても周りの理解がないと実質的には機能しません。逆に制度が完全でなくても、職場の雰囲気や理解があって、それぞれの状況を想像できる関係があると格段に続けやすくなります。いろいろな立場や状況の中で研究も進められる雰囲気が研究仲間の中で共有できていると、多様なライフコースが自然に受け止められるんじゃないかなと思います。

越智 真奈美 国立成育医療研究センター
政策科学研究部 室長

東京大学医学部健康科学・看護学科卒業後、総合母子保健センター愛育病院にて助産師として勤務。東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻(SPH)を修了後、三重大学大学院にて博士(医学)を取得。国立成育医療研究センター社会医学研究部、国立精神・神経医療研究センター自殺総合対策推進センター、国立保健医療科学院を経て、2023年4月より現職。子どもの貧困や健康格差、父親の育児参加、児童虐待予防に向けた支援プログラムの実装研究など、親子を取り巻く社会環境と健康に関する研究に従事。